「Audi Q8 e-tron」は技術的な進化が著しく、乗り心地のよさが印象的:試乗レビュー

アウディの電気SUVのラインナップで最上位に位置する「Audi Q8 e-tron」。バッテリーなどの技術的な進化は著しく、乗り心地のよさが印象的なEV(電気自動車)に仕上がっている。
「Audi Q8 etron」レビュー:技術的な進化が著しく、乗り心地のよさが印象的
Photograph: Audi

それがテクノロジーの性質であり、変化の圧力ということなのかもしれない。だが、いまや消えゆく運命にある内燃機関を搭載した歴代のクルマよりも、電気自動車(EV)は“古くさく”なるスピードが速いように感じられる。初めて「Audi e-tron」を試乗したのは、本当に5年前だったのだろうか?

実際そのくらいになるので、そろそろ大幅な刷新があってもいい時期だろう。このアウディの大きなSUVにとって、それは本当に必要なことかもしれない。この5年間にBMWの「iX」やメルセデス・ベンツの「EQE」といった主要なライバルが競争に加わったからだ。どちらも白紙の状態から専用設計されたEVであり、アーキテクチャーの面ではエンジンを搭載した既存モデルとほとんど何も共有していないことに留意してほしい。

これに対してアウディの「Audi Q8 e-tron」は、「Audi Q4 e-tron」や次期「Audi Q6 e-tron」を含むEVのラインナップで最上位の地位を固めるために名称こそ変更されたものの、化石燃料で動く「Audi Q7」やポルシェ「カイエン」(どれもフォルクスワーゲンのグループ)と同じプラットフォームを採用している。

外観の変更においては、ますます表現力を増しているアウディのデザイン言語にいくらかのEVらしさが盛り込まれた。アウディの熱烈なファンでなくても、変化が進んでいることには気づくだろう。

具体的には、グリルのデザインが新しくなってアウディのロゴがより目立つようになり、フロントとリアのバンパーのデザインが変更されている。ヘッドライトの間にはライトバーが伸び、アルミ合金ホイールのデザインも新しくなった。

このQ8 e-tronには、後部に傾斜したルーフをもつ「Sportback」タイプも用意されている。だが、どんなクーペSUVであっても、どこか見かけ倒しのように思えてならない。一般的なクルマが備えるような広い荷室と高い汎用性を、個人的にはあきらめたくないのだ。

Photograph: Audi

技術面での著しい進化

より重要なのは技術面での進化だろう。電動化の世界において5年という時間は長く、バッテリーのエネルギー密度は常に向上している。

エントリーモデルとなるグレード「Q8 e-tron 50」のバッテリー容量が71kWhから89kWhに、上位グレード「55」(そしてパフォーマンス重視の「SQ8 e-tron」)では89kWhから106kWhに増えている。納得の進化といえるだろう。

モーターも見直され、空力もさらに最適化された。アウディは55の航続距離を「最大330マイル(約531km)」[編註:日本導入モデルの「Q8 55 e-tron quattro S line」はWLTCモードで501km]としており、充電スピードも改善されている。ただし、対応する充電出力が150kWから170kWに上がったとはいえ、現代自動車の「Genesis GV70」などの最大240kWには遠く及ばない。バッテリーは10%から80%まで31分で充電できるが、これも25分以下で充電可能な「EV9」の800Vアーキテクチャには譲っている。

Q8 e-tronは、力学の面においても改良が加えられている。ステアリングの応答性は、よりクイックで機敏になった。サスペンションは洗練され、すべてのモデルでエアスプリングサスペンションが採用されている。スタビリティコントロールとトラクションコントロールのアルゴリズムも微調整された。

なお、55の最大出力は計402bhp、最大トルクは490ポンドフィート(約664Nm)で、335bhpの50モデルと496bhpのSQ8の間に位置する[編註:日本導入モデルは最高出力が250〜300kW、最大トルクが664Nmとなる]。SQ8には3基目のモーターも追加された。

Photograph: Audi

特筆すべき乗り心地のよさ

2基のモーターを搭載する「55」グレードの操作性はインタラクティブというより、クルマに身を委ねるようなフィーリングをもつクルマだ。しかし、どの電動SUVも運転を楽しませることが真の使命ではない。なぜなら、シャシーに工夫が凝らされていようが、エンジニアリングが優れていようが、e-tronの車重は2.5tを超えているので、作用する物理特性は変わらないからである。

BMW iXに匹敵することは確かだが、この種のドイツ製プレミアムカーの例に漏れず、やはり“偽りのスポーティーさ”がさりげなく強調されている。これが価値あることなのかはわからないが、静止状態からら時速62マイル(同約100km)までの加速は5.6秒、最高速度は時速124マイル(約200km)だ。YouTubeのドラッグレース映像には向かない。

むしろ、もっと穏やかな雰囲気に身を委ねる運転のほうがずっといい。その乗り心地のよさは、特に英国郊外の整備がひどい一般道では、少し硬く感じられる場合がある程度だ。

パワートレインの動作は滑らかで、コントロールはスムーズに調整される。回生ブレーキの強さはステアリングのパドルで臨機応変に調整することも、クルマ任せにすることもできる。

快適とはいえない天候で実施した試乗では脇道と高速道路を織り交ぜて走ったが、走行距離が100マイル(約160km)で電費は平均2.5マイル(約4km)/kWhだった。航続距離にして約270マイル(約434km)相当だ。アウディの主張にはわずかに及ばないものの、現実の走行条件で期待するくらいの距離は走る。悪くない。

おなじみのインテリア

インテリアはおなじみのもので、少なくとも品質という点ではアウディとして申し分のないレベルだ。インフォテインメントとエアコンの制御は別々の画面に表示されるが、グラフィックは鮮明で見やすく、タッチ操作感も良好で簡単に扱える。

興味深い点は、アウディとBMW、メルセデス・ベンツは3社とも同じ道を歩んでいるにもかかわらず、その製品に大きな違いがあることだ。個人的にはBMWの曲面ガラスのディスプレイが模範的であると考えるが、アウディも間違いなく高品質である。

なお、Audiには旧来の内燃機関プラットフォームとの奇妙な類似点として、シートとシートの間にはトランスミッションのシャフトを通すような“トンネル”がある。このためインテリア空間は、BMWやメルセデス・ベンツほど想像力が発揮されているとは言えないだろう。

Photograph: Audi

最初期発売グレードの「Launch Edition」にはカメラ式のサイドミラーも装備されており、左右のドアに装備された取り付けられたディスプレイに画像が表示される。このテクノロジーには5年かけて慣れてはきたが、その有効性についてはまだ結論が出ていない。とはいえ、ミラー部分の風切り音を最小限に抑えるうえでは役立っている。

販売価格は、米国での「Premium」グレードが74,400ドル(約1,100万円)から、同じモデルを「50」と呼ぶ英国では67,085ポンド(約1,240万円)からとなる[編註:日本では「Audi Q8 50 e-tron quattro S line」が1,099万円]。クーペSUVタイプの「Q8 Sportback e-tron」は、さらに2,500ポンド(約46万円)または3,400ドル(約50万円)高くなる[編註:日本での差額は218万円]。まさに高価な“電動のアドベンチャー”と言っていいだろう。

クーペSUVタイプの「Q8 Sportback e-tron」。

Photograph: Audi

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による電気自動車(EV)の関連記事はこちらアウディの関連記事はこちら


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