中止が決まったゲームの祭典「E3」は、オンラインイベントの波にのまれて姿を消すのか

2019年以来となるリアル開催が期待されていたゲームの祭典「E3 2023」の中止が決まった。最近のゲーム会社はハードウェアや新作の発表イベントをストリーミング配信する傾向が強く、いまやリアルイベントを開催する意味は薄れている。
Silhouetted people sitting in a row playing video games on computers in front of a large colorful screen
かつての「E3」は、世界中のゲーム関係者がロサンゼルスに集まって1週間近くもプレゼンテーションや派手な発表をする場だった。Photograph: FREDERIC J. BROWN/Getty Images

2023年に最も待ち望まれていたゲーム関連イベントが、またしても中止となった。19年以来となる会場でのリアルイベントとして6月の開催が期待されていた「E3 2023」について、主催者側が3月末になって中止を発表したのである。

IGNによる3月30日の報道によると、このイベントを運営するエンターテインメントソフトウェア協会(ESA)は会員に対し、E3は「依然として愛されるイベントでありブランドである」ものの、今年のイベントは「わたしたちの業界の規模、力、影響力をはっきり示すようなかたちで実施するために必要な持続的な関心が単に集まらなかった」と伝えたという。

かつてE3は、ゲーム関連のビッグニュースの年に1度の発信源だった。ロサンゼルス・コンベンションセンターやステイプルズ・センター(現在のクリプト・ドットコム・アリーナ)周辺のダウンタウン地区に世界中から参加者を引き寄せ、約1週間にわたりプレゼンテーションや派手な発表を提供していたのである。参加者たちにとっては、これから発売されるゲームの早期プレビューや独占インタビューを見学したり、任天堂の宮本茂のような業界のレジェンドたちの顔をすぐ近くで見たりできる場所だった。

ところが、大手企業が「Nintendo Direct」や「PlayStation Direct」などのストリーミング配信を採用し、オーディエンスに情報を直接届けるようになったことで、E3は低迷するようになった。現在は「Summer Game Fest」のようなイベントがE3が担ってきた役割を果たしている。このイベントは「The Game Awards」の創設者であるジェフ・キーリーが開催しており、対面イベントの要素とオンラインで楽しむことに特化したコンテンツを融合させたものだ。

ESAの社長兼最高経営責任者(CEO)のスタンレー・ピエール=ルイはGamesIndustry.bizのインタビューで、今回のイベント中止の要因としてパンデミックと「経済的な逆風」を挙げていた。さらにピエール=ルイは、「対面式イベントとデジタルマーケティングの機会をちょうどよく両立させる方法を、各企業が模索し始めています」と語っている。

盛り上がるオンラインイベントに埋没

E3はゲームをつくる人たちと、それを取材する人たちの双方にとってメリットのある一大マーケティングイベントだった。この点で、「PAX」のようなファン主体の集まりや「Game Developers Conference(GDC)」のような知識とネットワークづくりを重視したカンファレンスとは対照的である。

E3の価値とは、イベントにどのような企業を誘致できるか、そして参加者がそれらの企業と接点をもつ機会がどれだけあるかという点にあった。かつては任天堂やマイクロソフト、ソニーのプレイステーション、ユービーアイソフト、ベセスダ・ソフトワークスをはじめとする多くの企業が、正式な開幕前のキックオフイベントとして立て続けに発表会を開催していたのだ。

ところが、TwitchやYouTubeのようなストリーミング・プラットフォームのおかげで、企業は広報代理店や記者の助けを借りなくても、消費者にニュースを対面とオンラインで同時に届けられるようになった。例えば任天堂は、厳重な管理下で事前録画された熱狂的なオンラインイベントを「Nintendo Direct」で繰り広げることで、こうした仕組みを完成の域に到達させている。

同じように、誰も安全に集まることができない時期につくり上げられたキーリーの「Summer Game Fest」は、物理的な出席を必要とせずに運営できるデジタル専門のイベントとして構想されている。ゲーム会社がつくり出している独自のイベントと、「The Game Awards」の人気のおかげでストリーミング分野で勢いを増しているキーリーのイベントの中間に位置するE3は、必要性をほとんど失ってしまったのだ。

新しい話題も期待できず

E3の主催者が新型コロナウイルスを懸念してイベントを中止するようになる前から、すでに参加者は減少傾向にあった。

以前はキアヌ・リーヴスやアイシャ・タイラー、ペレといった有名人がイベントに登場し、さまざまなゲームとのかかわりを大げさに宣伝するのが恒例だった。任天堂の宮本が姿を見せ、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のマスターソードを振り回したりもしたのである。スティーヴン・スピルバーグやジェームズ・キャメロンの退屈なゲスト出演もあった。

これに対して2023年は、そのような話題を期待できそうもなかった。今年のイベント開催予定日の数週間前になって、ソニーのプレイステーションやマイクロソフトのXbox、任天堂、ユービーアイソフト、セガ、テンセントが、すべてほかの場所でのプレゼンテーションに注力するため不参加を表明したからだ。

もちろんESAは、たとえ地味になってもイベントを開催するために努力した。22年には「スターウォーズ・セレブレーション」や「ニューヨーク・コミコン」などを手がけるReedPopが、今年のショーに合わせてE3を刷新すると発表していた。どうやらそれでも不十分で、遅すぎたようである。

ReedPopでゲーム担当のグローバル・バイスプレジデントを務めるカイル・マースデン=キッシュは取材に対し、主催者側は「業界にとって正しいこと、そしてE3にとって正しいことをしなければならなかった」とコメントしている。

さらに「関心のある企業がプレイアブルデモを用意しないと決めたこと、そして今夏のE3への参加を難しくしていたリソースの課題を克服できなかったことを、わたしたちは十分に理解しています」とも、マースデン=キッシュは説明している。「E3 2023への参加を約束してくれていた人たちには、ReedPopのイベント体験から期待されていたような、みなさんにふさわしいショーを開催できず申し訳なく思っています」

E3の現在の最大の価値

ESAはこれでE3が終わるとは言っていないが、引き継ぐべきデジタルコンテンツさえないまま開催のわずか2カ月前に中止となったことは、不吉な兆候である。だが、もしかすると、このイベントが終わるときが来たのかもしれない。

業界の人々が物理的に集まってネットワークづくりをしたり、ゲーム制作の仕事について話したりできる場は、これからもずっと価値があるだろう。しかし、それは決してE3が最も得意とする役割ではない。E3はマーケティングイベントであり、長年にわたり企業がピーターパン症候群の人たちと闘ってきた場所なのだ。そこは大人の遊び場であり、企業が真剣な態度をとろうとすればインタビュールームや特別室に追いやられるという感覚は失われていない。

業界ではゲームのつくり方(誰がつくるか、誰がつくることを許されるか、どのような条件でつくられるか)について風当たりが強くなっており、それにつれ未検証の誇大な宣伝に対する許容範囲が狭まりつつある。そのぶんゲームのパブリッシャーは賢くなり、干渉されることなくオーディエンスにリーチできるツールを利用するようになった。

E3の現在の最大の価値は、主催者が生み出すイベントではない。その遺産と知名度から何とか絞り出せる“血液”の中にあるのだ。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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