FASHION

スキーウェア+ゲーム、NFC+音楽。この冬もBALENCIAGAの先進性はテクノロジーとともに

2023年末にメゾンとして初となるスキーウェアのコレクションを発表したBALENCIAGA。同時にリリースされたのは3Dのシミュレーションゲームだった(けっこうよくできている)。さらにNFCチップ(限定の楽曲を聴くことができる)を内蔵したウェアも発表。テクノロジーとファッションとクリエイティビティという点で、やはりこのブランドはユニークだ。
スキーウェア+ゲーム、NFC+音楽。この冬もBALENCIAGAの先進性はテクノロジーとともに
PHOTOGRAPH BY BALENCIAGA

なぜビデオゲームなのか

BALENCIAGA SKIWEAR MINI GAME。このオンラインビデオゲームをもうプレイされただろうか。ゲレンデを滑り降りるシュミレーターのようなスキーゲームで、Balenciaga Skiwearコレクション(ウェアだけでなくヘルメットスキー板もある)を全身にまとったアバターを操作する。コマンドはきわめて単純だ。

PCならキーボードの左と右のカーソルキー、スマートフォンならパネルの左と右をタッチして、コースに配された赤と黒のゲートを左右にスラロームしながらクリアしていくというもの。

十数個のゲートをクリアするたびにステージが転換し(ホワイトアウトするので気が抜けない)、滑降スピードや時刻や天候によるゲートの視認性がそれぞれ3段階で変化していく。ひとつでもゲートをクリアできなかったり(黒は右、赤は左へスラローム)、ゲートに衝突したり(アバターの転び方もなかなかリアル)するとゲームオーバー。世界中のプレーヤーとそのプレイタイムを競うという仕組み。

1月31日まではコンテスト期間とされており、指定されたゾーンごとにベストプレーヤーがランキングされていく。世界のトップファイブのプレイタイムはゲーム終了後のスコアボードに表示される。果たしてチャンピオンには、スキーウェアのコレクションよりBalenciaga Ski Lock(スキーロック? それが何かは明らかにされていない)が贈呈されるという。

執筆時のプレイタイムのリーダーボード。ナンバー1の3分超というのはかなりハイスコアに感じる。体感としては2分を超えてプレイするのもなかなかタフ。

本稿執筆時(1月5日)で筆者のゾーン内での最長プレイタイムは3分01秒20。体験されたらわかると思うが、かなり超人的な記録のように思われる。が、極端にシンプルでよくできたスポーツ系のゲーム(例えばファミコンの「テニス」とか「ゴルフ」とか)と同じように、身体的なタイミングや感覚がものをいい、やり込むほどに着実に上達する。つまり奥深さがある。

もちろんグラフィックは高精細でなかなか美しく(画面の奥にそびえる雪山はモンブランだろうか?)、ソリッドブラックとソリッドホワイトのアバターはなにしろクールだ(ほとんど後ろ姿しか見ることができないが)。加えてゲレンデにシュプールを描くエッジの音やゲートを叩く音、ヘルメットに当たる雪の音などもリアルに再現している(ぜひイヤフォンで確認を)。それでいてアバターやコースの動作はなめらかで、グラフィック処理やコマンド操作の遅滞は一切ない。総合的なゲームデザインに秀でているといえる。

確かに、モードとビデオゲームの接近は続いており(Louis Vuittonと「ファイナルファンタジーXIII」、Gucciと「Fortnite」などなど)、今回のプロジェクトもその動向に連なるものだともいえる。が、BALENCIAGAがユニークなのは、コラボレーションではなく“ゲームそのもの”をつくり出している点にある。

Balenciaga Skiwearコレクションのアイコンとなるスキーパーカは、ポリエステルのテクニカルリップストップ(撥水加工済み)を使用し、内外にさまざまなポケット(そのひとつはスマートフォンの過冷却を防ぐデバイス用のポケット)を配している。3B SPORTS ICON SKI パーカ(メンズ) ¥602,800〈BALENCIAGA/バレンシアガ クライアントサービス balenciaga.com

PHOTOGRAPH BY BALENCIAGA

加えて、オーバーサイズのフーディといった定番をさらに機能的(冬山対応)にしたアイテムもある。コットンフーディは裏地がヘビーフリース仕立てになっていて、表面は撥水加工が施されている。3B SPORTS ICON ウォーターリペレント HOODIE オーバーサイズ ¥ 336,600〈BALENCIAGA/バレンシアガ クライアントサービス balenciaga.com

PHOTOGRAPH BY BALENCIAGA

振り返ればパンデミックの渦中の2020年末に発表されたFALL 21コレクションは、このシーズンのためだけに設計されたビデオゲーム「Afterworld: The Age of Tomorrow」の中で発表された(Unreal Engineを使用し、 Streamline Studiosがゲームの開発を担い、Dimension Studioがボディメトリックビデオキャプチャにより50ルックのデジタルモデルを作成し、そのほかにも多くのスタジオやクリエイターが参画)。当時は一般にも公開され(現在はルックとビデオのみ)、モードとビデオゲームの関係を飛躍的にイマーシブな体験へと進化させたのだった。

つまりBALENCIAGA、そしてアーティスティックディレクターのデムナにとって、ゲームはコラボレートの対象でも、マーケット拡大のための異分野でもない。そのクリエイティビティや感性をいかんなく注ぎ込むことができる自由なフォーマットのひとつなのだろう。そう、服やバッグやスニーカーと同様に、メゾンの創意やスタイルを反映するものとしてゲームがある。

Balenciaga Skiwearコレクションは、スキーウェアとしての高い機能性と、これまでのプレタポルテのテーマを発展させたデザインやシルエットを展開している。パファーやタイトフィットのフリースなど、スポーツにより特化したアイテムがラインナップ。ちなみにゲームでアバターが着用しているのは、SKI パーカと同素材の6ポケットタイプのSKI CARGO パンツ、イタリアのBrikoとコラボレーションで制作したヘルメット、スキー板とポールだ。

音楽への並々ならぬ熱意

そのことはBALENCIAGAと音楽の関係性についてもいうことができる。「音楽はわたしの人生の大部分を占めており、BALENCIAGAのカルチャーにも欠かせないものです」。アーティスティックディレクターのデムナがこう語る通り、あるいは音楽については、ゲーム以上にメゾンの重要な位置を占めているようだ。

オンラインでBALENCIAGA MUSICを訪問すればわかる。そこにはSHOW MUSIC PLAYLIST(ランウェイショーのたびに作成されるオリジナルスコアのプレイリスト。手がけているBFRNDはデムナのパートナーでもある)や、FITTING ROOM PLAYLIST(ショーのモデルをスタイリングする際にデムナが聴いていたプレイリスト)、さらにデムナが好んで聴くさまざまなアーティスト(JAY-JAY JOHANSON、PINK MARTINI、AYA NAKAMURAなど、ジャンルも世代も多彩だ)によって作成されたプレイリストや、デムナ本人によるプレイリストも公開されている。いずれも2時間をゆうに超える長さで(デムナに関しては13時間も!)、かなり聴きごたえがある。

BALECIAGA MUSIC | ARCHIVEの限定コレクションは、フロントにバンドを象徴するようなアートワークを、バックにはディスコグラフィーをプリントしている。ブラックのほかホワイトもラインナップ。もちろんすべてのアイテムに限定曲「Pattern」へのアクセスを可能にするNFCチップが付く。BALENCIAGA MUSIC | ARCHIVE SERIES コネクテッド ジップアップ フーディ ¥170,500、コネクテッド Tシャツ ¥102,300〈ともにBALENCIAGA/バレンシアガ クライアントサービス balenciaga.com

その最新のものが、23年11月に発表されたロンドンを拠点とするArchiveとのプロジェクトだ。トリップホップ、エレクトロニカ、プログレッシブロックなどを複数のヴォーカリストとともに横断していくような、アーティストコレクティブで、28年のキャリアで12枚のスタジオアルバムをリリースするベテランでありながら、挑戦的な創作姿勢をキープし続けることでも知られている(特にヨーロッパで人気)。

今回はArchiveがセレクトした7時間を超えるプレイリストに加えて、BALENCIA MUSICの初めての試みとして、NFCチップを介した限定の楽曲「Pattern」の配信も行なわれる。フーディTシャツなど対象となるアイテムに縫い付けられたチップ(“TAP PHONE HERE”と記されている)をスマートフォンでスキャンすると、オリジナルのリスニングイベントのロックを解除して聴くことができるというもの。

テクノロジーだけで見れば新しいわけでもないが、音楽とファッションの新しいインタラクションの方法という点で考えれば、新たな可能性をひらく方法であることは間違いない。音楽のリスニング体験がサブスクリプションなどストリーミングにシフトしていくなかで、フィジカルな価値をもたらすオルタナティブな方法としても注目していいのではないだろうか。あるいは近い将来、Bandcampのマーチャンダイジングで定番のフォーマットになるかも。

(WIRED JAPAN/Edit by SATOSHI TAGUCHI)

※『WIRED』によるFASHIONの関連記事はこちら


Related Articles
article image
デザイン性・アート性に富んだ、スタイリッシュなアクションパズルゲーム──。『HUMANITY』をそんなふうに表層的に捉えてしまうと、このゲームが「真に体現しようとしたこと」を見過ごしてしまいかねない。このゲームには、いったい何が込められているのか。開発に携わった者たちの複眼的な視点からひもとく全4回の短期集中シリーズ。第2回目は、水口哲也からも「ぜひ取材してほしい」とリクエストがあった電子音楽家のJEMAPUR。『HUMANITY』のBGMと効果音はいかなるビジョンから生まれたのだろうか。
Large crowd and giant screen at the U2 concert at The Sphere
ラスベガスに出現した巨大な球体型アリーナ「Sphere(スフィア)」。壁から天井までドーム状の高解像度スクリーンに覆われた会場ではロックバンドのU2のライブと映像作品が披露されたが、その没入感たるやヘッドセット不要の“VR体験”そのものだった──。『WIRED』エディター・アット・ラージ(編集主幹)のスティーヴン・レヴィによる考察。
article image
タイトにドライヴするオルタナティブなサウンドに、抑揚のない独り言のようなヴォーカル。サウスロンドン出身のバンドDry Cleaningは、控えめに言ってとてもユニークだ。その音楽についてももちろんだけれど、訊きたいことはいろいろある。

未来を実装する「実験区」へようこそ!
会員限定コンテンツの無料トライアルはこちら

最新テクノロジーからカルチャーまで、次の10年を見通すための洞察が詰まった選りすぐりの記事を『WIRED』日本版編集部がキュレーションしてお届けする会員サービス「 SZ メンバーシップ」。週末に届く編集長からのニュースレターやイベント優待も。無料トライアルを実施中!