Drones as rescue tool

ドローンによる消防救助で、森林火災への対処が劇的に向上する──特集「THE WORLD IN 2024」

気候変動がもたらす山火事の救助チームにドローンが加わる。早期に警報を出し、状況分析をする。生存者の居場所を突き止め、さらには消火活動までこなすのだ。
ドローンによる消防救助で、森林火災への対処が劇的に向上する──特集「THE WORLD IN 2024」
ILLUSTRATION: DAVIDE SPELTA

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世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2024年の最重要パラダイムを網羅した恒例の総力特集「THE WORLD IN 2024」。環境政策研究者のイラン・ケルマンと、リスク・マネジメントとレジリエンスのコンサルタントであるギャレス・バイアットは、ついにドローンが、山火事の消火と予防の主力のひとつになると期待を寄せる。


世界各地で山火事が猛威を振るい、これによるインフラの損傷、家屋の破壊、生活の混乱、人命の損失など、広範囲にわたる被害が出ている。だが、2024年には、消防士たちはこのような火災が大惨事につながるのを防ぐ新たな手段を手にすることになる。それは「ドローン」だ。

例えば、計算どおりの防火帯をつくるために、接近しにくい場所に爆発物をドローンで投下することなども考えられる。最近、ネブラスカ大学リンカーン校の研究者が、ドローンで仕掛けられるピンポン玉サイズの爆発物のプロトタイプ「Dragon Egg」を開発した。最近テキサス州で実施されたドローンによる起爆実験でも、ドローンを使わずに着火した場合に比べて燃焼効率が129%向上したという。

24年には、温度や湿度といった環境条件の分析にもドローンが使われるようになる。特に枝葉の間の状況を把握できると、消防士は火の燃え広がり方を予測しやすくなる。このドローンは夜間でも動かすことができ、煙や雲の中の状況を監視できる。

最近では、ギリシャのアテネのグループが自己資金を投じてドローンを24時間365日飛ばし、人や家屋に山火事の危険が迫る前から、警告と対策を実施できるようにしている。オーストリアの研究チームは、枝葉の間の動きを監視する新しいドローンセンサーの開発に取り組んでおり、火や燃えさしの検知に応用しようとしている。

米国企業のOverwatch Aeroも、最長14時間浮遊を続け、長尺のビデオフィードを提供できるドローンを開発中だ。これにより、火の広がりについての有益な情報を得ることが期待されている。オーストラリア企業のCarbonixは、送電線に接触している植生を特定するドローンを製作している。電力インフラの構造的な問題を見極め、特定の化学物質や煙を嗅ぎ分けるのだという。

24年には、ドローンやドローンの群れを使った実験を通して、現行の消火方法の改良が進むだろう。湖や川で何千kgもの水を汲み上げ、運搬して山火事に投下するドローンはその一例だ。Singular Aircraftという会社は、すでにスペインとメキシコで何百kmもの距離で水を運ぶドローンのテストを実施している。ポルトガルのコインブラ大学フィールドラボの研究者は、消防用ホースを運ぶドローンを開発した。このドローンを使えば、消防士と消防車は比較的安全な場所に留まりながら、接近が難しい場所の消火活動ができる。

人や家屋、インフラに火が迫った場合、ドローンは逆火を起こすことができる。意図的に起こした炎が火元に向かって燃え、燃料を消費して火災が広がりすぎないようにする。他に手段がなくなり、山火事の中を避難せざるを得なくなったとき、次善策としてドローンは人や車両を安全な場所に誘導する支援を行なう。

それでも万策尽きた場合、ドローンは最後の手段として、火災に巻き込まれた人々が鎮火するまで避難できるよう焼き払った空地をつくり、防火毛布、呼吸機器、生存のための必需品を届ける。例えば、台湾を拠点とする研究チームは、捜索の手段として、携帯電話の信号を識別して生存者の居場所にあたりをつけるドローンを提案した。このアイデアは現在、ドローンを用いた捜索救助活動のクラウドソーシングを実施するところまで進んでいる。

もちろんドローンにも欠点はある。天候や火災の状況によっては不安定になりかねない。操縦飛行機と衝突するかもしれない。そして、センサーと通信機能に未だ技術的な限界がある。それでも2024年は初めてドローンが、山火事の消火と予防の主力のひとつになる年になるだろう。

イラン・ケルマン|ILAN KELMAN
環境政策研究者。気候変動、再生可能エネルギーなどが専門。カリフォルニア大学サンタバーバラ校所属。米国の電化を推進する団体「Rewiring America」のアドバイザー。著書に『Short Circuiting Policy』(2020年)。

ギャレス・バイアット|GARETH BYATT
リスク・マネジメントとレジリエンスのコンサルタント。主にオーストラリアと英国を拠点に活動している。

EDIT BY MAMIKO NAKANO


雑誌『WIRED』日本版VOL.51
「THE WORLD IN 2024」

アイデアとイノベーションの源泉であり、常に未来を実装するメディアである『WIRED』のエッセンスが詰まった年末恒例の「THE WORLD IN」シリーズ。加速し続けるAIの能力がわたしたちのカルチャーやビジネス、セキュリティから政治まで広範に及ぼすインパクトのゆくえを探るほか、環境危機に対峙するテクノロジーの現在地、サイエンスや医療でいよいよ訪れる注目のブレイクスルーなど、全10分野にわたり、2024年の最重要パラダイムを読み解く総力特集!詳細はこちら


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