フィルターなしで日常の“リアル”を切りとる、新感覚の写真SNS「BeReal」の使い方

スマートフォンに通知が届いてから2分という短い制限時間内に写真を撮影し、投稿する写真共有SNS「BeReal」が、欧米で熱心な若いユーザーを獲得している。フィルター機能がなく、友人の“素”の一面を見られるこのアプリの魅力とは?
Silhouette Man Taking Photos
PHOTOGRAPH: KATRIN SAUERWEIN/GETTY IMAGES

アレクシス・バレヤートが2020年に立ち上げたフランス発の写真共有SNS「BeReal」が欧州で人気を博し、米国では大学生を中心に多くの熱心なユーザーを獲得している。BeRealのユーザーには、その場で写真を撮って投稿するよう促す通知が毎日ランダムな時間に届く。この通知を受け取ったユーザーは2分という制限時間内で、自撮り用のフロントカメラと背面のメインカメラで一度に撮影して合成した写真を投稿する必要があるのだ。

Instagramの初期にあったキュレーションの美学は失われたと、これまで何度も言われてきた。こうしたなかBeRealは、“真正性”(どういう意味をもつかはさておき)というSNSユーザーが追い求めてきた概念を利用したアプリである。

BeRealは、音声SNS「Clubhouse」やNFT(非代替性トークン)マーケットプレイス大手の「OpenSea」、ニュースレターのサブスクリプション・プラットフォーム「Substack」などに資金を投じてきたアンドリーセン・ホロウィッツをはじめとする大手ベンチャーキャピタル(VC)から、すでに数百万ドルの資金提供を受けている。

ハーバード大学の学部生が運営する学生新聞『Harvard Crimson』は、Instagramの「photo dump(たまった写真の大量投稿)」は大統領もるくらい当たり前になってしまったと2月に指摘している

この記事では、フィルターのないBeRealの加工が施されていないタイムラインに魅了されたとしたうえで、「完璧なポーズや背景を探す時間が与えられないこのアプリで目にするコンテンツは、日常を切り取った投稿で溢れている。しかしながら、魅力と自然さにあふれており創造的なのだ」と記している。BeRealを使ったハーバード大学生を対象に、運営元が入場無料のパーティをスポンサーしたことにも、この記事では触れている。

また、デューク大学に通うジュールス・クレラコスは、BeRealはほかのソーシャルメディアに比べると取りつくろった投稿が少ないように見えるが、ユーザーはポーズをとった写真を投稿し続けていることを指摘している。どのアプリでも、ありのままの姿をさらけ出しているユーザーを探すことは無駄かもしれないが、BeRealは機能がシンプルで始めやすいアプリだ。

Image: BeReal

1日1回の投稿が必須

BeRealはiPhoneとAndroidスマートフォンで使うことができ、始めるにはアカウントをつくる必要がある。アプリをダウンロードすると、すでにBeRealを利用している友人とつながるために連絡先へのアクセス権を要求される(拒否することも可能だ)。連絡先にいる友人がトレンドに敏感でなければ、BeRealを使っている人はまだ多くないだろう。

次に名前と生年月日、電話番号の入力を求められる。また、通知が届いてから2分以内の毎日の投稿を目指すのであれば、通知をオンにしておくことが肝心だ。

アカウントを設定しているときにBeRealは新規ユーザーに対し、その場で写真を撮り、最初の投稿をするよう促してくる。日々の投稿は、「ディスカバリー」(不特定多数のユーザーの投稿を閲覧できるタイムライン)や友人の投稿を見るための“通行料”だ。投稿する気分でなければ、ほかのSNSに切り替えたほうがいいだろう。

つまり、1日1回の投稿をしない限り、ほかのユーザーの写真を見ることはできないのだ。制限時間が過ぎても投稿することはできるが、その投稿は遅れて提出した宿題のように扱われ、「15分遅れ」といったメッセージが上部に表示される。

古い投稿は消えてゆく

投稿を作成するには、スマートフォンのカメラへの接続を許可する必要がある。反転ボタンをタップしてカメラを反転すれば、前後両方のカメラの角度の確認が可能だ。必要に応じてフラッシュをオンにして、画面中央下の円をタップすれば写真を撮影できる。

制限時間外に投稿を作成する場合でも、画面上には2分間のタイマーが表示される。投稿までの時間は、写真を撮り直す時間も含めてカウントダウンされるのだ。

投稿した写真を誰が閲覧できるかはユーザーが選択できる。ディスカバリー上で世界中に公開するか、「友達」にだけ共有することが可能だ。投稿に含まれる位置情報はオフにしない限り表示されてしまう。また、投稿した写真を削除することもできるが、削除できる投稿は1日に1つに限られている。そして、投稿が公開されたあとはキャプションを追加する機能もある。

「友達」に登録されているユーザーには、「RealMoji」と呼ばれる顔写真の“絵文字”を残したり、コメントしたりできる。これに対してディスカバリーフィードにいる人に対するリアクションは、RealMojiの使用のみに限定される。

投稿はTikTokやInstagramとは異なり毎日タイムラインから消去され、その日の投稿に置き換えられる。「メモリーズ」という過去の投稿を保存する機能もあるが、これを閲覧できるのはユーザー本人のみだ。

どんな内容が投稿される?

プライバシーの観点から、個人的には位置情報の共有をオフにしている。位置情報の共有をオンにしている場合は、個人情報が含まれる写真を公開しないよう特に注意したほうがいい。カジュアルなスナップ写真でも、ユーザーのプライバシーが危険に晒される可能性はあるからだ。

BeRealは制限時間内に写真を撮って投稿するという、一見すると不安を駆り立ててしまうような機能を、気軽なSNS体験へと巧みに変貌させている。120秒のうちに何度も写真を撮り直すことは物理的に不可能なので、きれいな自撮りを投稿する重圧は薄れるのだ。

BeRealを試した1週間で撮影したほとんどの写真には、何らかの画面が映り込んでいた。例えば、アニメ「スポンジ・ボブ」の名エピソードを再生していたり、電気自動車のバッテリーについての資料をノートPCで読んでいたり、Nintendo Switchの「ピクミン3 デラックス」で遊んでいたり、家でこの記事を書いたりしている自分がBeRealに写っていた。

ディスカバリーのフィードをスクロールしたところ、外出しているユーザーは少なく、家族との夕食の風景や会社のバックルームに隠れている投稿があった。ディスカバリーの大半は、画面を見つめている投稿で埋め尽くされている。例えば、MacBookで勉強したり、「フォートナイト」をプレイしたり、iPhoneで道を調べたり、ベッドでNetflixを観たり、レッド・ホット・チリ・ペパーズを聴いたり、さまざまなユーザーがいる。

メインストリームに乗れるのか

BeRealは一部の米国の大学で全面的なキャンペーンを実施中だ。BeRealのマーケターには、出会い系アプリ「Bumble」の学生アンバサダー・プログラムを率いたエミリー・モラヴィッツが起用されている。学生街に密着したイベントを通して北米の若く流行に敏感なユーザー層を獲得することで、アプリをより多くの人に広めようとしているのだ。

BeRealは大きな話題を呼び流行しているが、この勢いを保てるかまだわからない。カンザス大学に通っていたころ、新進気鋭のソーシャルメディアが開催した騒がしいパーティに参加したことがある。ノベルティとしてブランド名のついたドリンクホルダーをいくつかもらい、スマートフォンに新しいアプリをたくさんダウンロードして帰途についた。

そのパーティでダウンロードした「Yik Yak」は、近くにいる匿名ユーザーの投稿を読めることを売りにしていた。ところが、悪意のある発言が投稿され、いじめの温床になったことで物議を醸し、その数年後に閉鎖された。しかし、21年にはゾンビのように復活している

Yik Yakには毒性を感じるが、BeRealはいまのところほかのSNSからの安全な避難所のように思える。登録するよう友人を説得すれば、すぐに楽しめるプラットフォームだろう。BeRealはソーシャルメディアではあるが、誰の投稿がいちばん話題になって取り上げられるか競う必要がない。

ぜひ、このアプリを楽しんでほしい。アプリのサービスが終了する可能性もあるが、平凡な日々をいつくしむひとときを過ごせるかもしれない。

WIRED US/Translation by Taeko Adachi/Edit by Naoya Raita)

※『WIRED』によるSNSの関連記事はこちら


Related Articles
Person holding a smart phone and a touching the screen.
Twitterの乗り換え先としてZ世代から注目されている新しいSNS「Hive Social」。22年11月末に1晩で25万人の新規ユーザーを獲得したこのSNSの使い方と、ヒントをいくつか紹介しよう。
Blue hexagonal shapes connected together on an orange background; decentralized social media concept
ツイッターが混乱に陥った影響で、分散型ソーシャルメディア「Mastodon(マストドン)」が注目されている。ユーザー数が急増しているMastodonの現在の状況と基本理念、Twitterとの相違などについて、創設者であるオイゲン・ロッコに訊いた。
Axel Mansoor
音声SNS「Clubhouse」で人気を博してきたルーム「Lullaby Club」の終了を、運営してきたミュージシャンのアクセル・マンスールが公表した。アマゾンが手がけるプラットフォームへの移転が理由だが、こうした動きはClubhouseの“終わり”を意味するのだろうか──。『WIRED』US版エディター・アット・ラージ(編集主幹)のスティーヴン・レヴィによる考察。

毎週のイベントに無料参加できる!
『WIRED』日本版のメンバーシップ会員 募集中!

次の10年を見通すためのインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を、週替わりのテーマに合わせてお届けする会員サービス「WIRED SZ メンバーシップ」。毎週開催のイベントに無料で参加可能な刺激に満ちたサービスは、無料トライアルを実施中!詳細はこちら