生ゴミを無臭の粉末に変える処理機「Mill」を試してみた

生ゴミを粉末化し、ニワトリの飼料にすべく回収してくれるシステムもついてくる電動ゴミ処理機「Mill」。気候変動問題を踏まえ、食べ残しを食品廃棄物として出さないようにするために開発された試作機を『WIRED』エディター・アット・ラージ(編集主幹)のスティーヴン・レヴィが1週間使ってみた。
Mill bin at the edge of a kitchen counter the lid is open and there are unprocessed food scraps inside
Courtesy of Mill

夜の10時。棺桶の中で眠っていた吸血鬼が夜想曲に反応して動き出すかのように、わが家のゴミ箱が始動した。フタの半円形をした黄色いライトが点滅を始め、ロックがかかったことを示すアイコンが光っている。高さ27インチ(約70センチメートル)の真っ白な容器の内部で金属のヘラが一定のリズムを刻みながら、卵の殻やセロリの茎、コーヒーのカス、鶏の骨などをゆっくりとかき混ぜている音が聞こえてくる。それらはみな、その日に放り込んだ生ゴミだ。

一時停止してフタを開け、ピザの耳を何個かそっと加えると、本体が熱を発しているのがわかる。夜明け前には、Wi-Fiに接続されたこのゴミ箱が仕事を終え、生ゴミや食べ残しはひとつ残らず、どれがどれだか見分けがつかない茶色い粉末に姿を変えているだろう。わたしが捨てた生ゴミは文字どおり、ニワトリの餌になる予定だ。

わが家のキッチンに新しく仲間入りしたのは、「Mill」という名の新製品の試作機だ。生ゴミを資源の循環のなかに組み込み、臭いを中和し、地球を救うためにつくられた機器である。そして、わたしが人生で初めて使う“電源を必要とする”ゴミ箱だ。おまけにBluetoothでスマートフォンと接続させたり、Wi-Fi経由でソフトウェアをアップデートしたりもできる。

ちなみに24年前、わたしは誕生したばかりの「モノのインターネット」(IoT)に関する記事を『ニューズウィーク』誌向けに書いていた。そのときに何の変哲もない食洗器の写真を背景に、「食洗器もインターネットに接続されるのか?」というカバータイトルを提案したことがある。当時、ばかげたアイデアだとボツになったが、いまとなっては食洗機ではなく、ゴミ箱にしておけばよかったと悔やまれる。

生ゴミを飼料に変えて、地球を救う

Millの考案者らは、この電動ごみ処理機が複雑な問題をハイテクを使って解決する手段だと言うだろう。サーモスタット(自動温度調節器)をテックマニア垂涎の製品へと一変させたNestの元社員が立ち上げた会社だけに、こうしたやり方はお手のものだ。Millが誕生したきっかけは、Nest元社員のハリー・タネンバウムが気候変動問題にのめり込み、食品ロスの膨大さに衝撃を受けたことだった(ちなみにタネンバウムはわたしの友人の息子で、彼が幼いころから知っていることを、ここに開示しておく)。

食品ロスは言うまでもなく、温室効果ガスが懸念され始めるよりずっと前から問題視されていた。子どもが夕食を残せば、こんなふうに叱られたものだ。「お腹を空かせた子どもたちのことを考えなさい!」と。

しかし、大嫌いなほうれん草を残さずに食べることが、どのようにして地球の反対側にいるやせ細った子どもたちのためになるのか、理由を説明してもらったことは一度もない。ただし、現在は気候変動の危機の真っただ中であり、食品ロスはもはや反抗的な子どもだけに限らない大問題となっている。

世界では、あらゆる食料の3分の1が廃棄されている。その多くがたどり着く先は、メタンガス発生源として米国で3位にランクインする埋立地だ。「わたしたちは無駄が出るのは仕方がないと考えるよう教え込まれ、それを埋め立てたり、焼却処分したりしているのです」と、タネンバウムは語る。「だったら、そこからさかのぼって生ゴミを出す家庭に介入し、食べ残しを食品廃棄物として出さないようにすればいいのではないかと考えました」

水分が取り除かれ、すりつぶされ、粉末状に

まず最初にタネンバウムは、Nest共同創業者のひとりであるマット・ロジャースに相談した。そして食物連鎖の専門家を交えて計画を練り始めた。やがて思いついたシステムから、Millという生ゴミ処理機が誕生し、わが家のキッチンで1週間せっせと生ゴミをかき混ぜることになったわけだ。

Millは一般的な家庭用生ゴミ処理機よりも幅広い種類の生ゴミに対応しており、取り扱いもシンプルだ。「食べることのできない鶏肉の骨やアボカドの種、オレンジの皮など、何でも処理できます」と、ロジャースは説明する。「生ゴミはMillの内部で水分が取り除かれ、すりつぶされて茶色い粉末状になります。その後、各家庭から回収されてまとめてニワトリの餌になります」

粉末になった生ゴミはもはやゴミとは呼べず、“栄養”に変身している。単に人間の栄養源ではないだけである。「ゴミではなく価値あるものなのです」と、Millの製品責任者クリスティン・ヴァードンは語る。「いったんそう気づけば、合理的なやり方だと思えるようになります」

Courtesy of Mill
Courtesy of Mill

Millの考案者たちはプランを練り上げると、シリコンバレーらしく会社を立ち上げることにした。ベンチャーキャピタルから多額の資金を調達し、アップル風の製品を設計する工業デザイナーを採用し、ナンシー・マイヤーズ監督作で描かれるおしゃれなインテリアにマッチしそうな製品をつくりあげたのだ。

超高密度の活性炭フィルターを考案し、生ゴミから発生する臭いも除去し、郵便公社(USPS)と契約して粉末状の生ゴミを集荷してMillの施設まで配送してもらう手はずを整えた。洗練されたアプリも開発したし、ひと苦労して「mill.com」というドメインも取得した。

そのための出費についてロジャースは、「ウェブサイトを立ち上げるのは1度だけですから」と語っている。「再び創業者になったことがあったら、そのときも本気でやるつもりです」。なお、Millで働く従業員はすでに100人に上っている。

Millはありきたりのスタートアップではない。何百年も続いてきた人々の暮らしを変えようとしている。ピザを餌にしているネズミの生活を左右することになるのは言うまでもない。そこでふと疑問が生じたので、いくつか質問をしてみた。

・Millに細菌などの毒素で汚染された食品が放り込まれる可能性はないのか?
ロジャースの説明によると、熱と乾燥によってバクテリアは除去され、Millの施設に届けられてからさらに処理が施されるという。

・Millは本当に気候変動問題を改善する生ゴミ処理法だと言えるのか。電力を必要とし、夜間に何時間も作動するうえ、処理された生ゴミは郵便で長距離輸送されるのに?
Millによると、ゴミ箱そのものの消費電力は1日1kWhで、食洗器とほぼ同じだ。輸送にもエネルギーが必要だが、兼ね合いを考えれば圧倒的に気候に優しいという。同社の計算では、一家庭で1日1ポンド(約454グラム)の生ゴミをMillで1年間処理した場合、抑制されるCO2の排出量は500kg以上になる。

・ユーザーにお金を払ってもらうために、どういう工夫をするのか?
Millの料金形態はいまどきのやり方を採用しており、製品はサブスクリプションのみで提供される。年間払いならユーザーにかかるコストは月額およそ33ドル(約4,300円)だ。この金額にはゴミ箱本体と、粉末送付用の梱包材、送料、交換用フィルターが含まれている。

ロジャースとタネンバウムは、ユーザーは気候変動への興味のあるなしにかかわらず、Millにお金を出す価値はあると思うはずだと胸を張る。何しろベタつくうえに、虫だのネズミだのを寄せつける生ゴミとおさらばできるのだ。

同社はこの2年間、「ひどい悪臭を放つ食品」をあれこれ組み合わせて、Millを絶え間なく試してきた。ニンニクやキムチ、エビの殻など、思わず吐き気を催すようなものばかりだ。そうしてついに、嗅覚を巡る戦いに勝利したという手応えを得た。

ただ、キッチンの臭いの悩みが解消されるとしても、使用料が年400ドル(約50,000円)とは、ずいぶんお高い気がする。ただし、気候変動対策の一環として政府から補助金が支給されれば、価格を下げられるのではないかというのがMillの考えだ。

とはいえ、そうした措置をとった自治体はいまのところ多くはない。従来のやり方でコンポストにするための生ゴミを自宅まで回収しに来てもらえる世帯はわずか数百万世帯だ。政府から補助金が出ればMillにとってはなによりだが、そうなるまでには根気よくロビー活動をしなければならない。


・粉末状になった生ゴミの味見はしたのか?
ロジャースの答えはイエスだった。「人間なら食べたいとは思わないでしょうね」と、彼は言う。ちなみに、どんな味だったのだろうか? 「焦げたトースト」と答えた彼の口調からすると、かなりまずいようだ。

Courtesy of Mill

普及の鍵は生ゴミを捨てることへの“罪悪感”?

わが家にやってきたMillで粉末状になった生ゴミを味見する勇気は、わたしにはなかった。

1週間ほど使用したところ、生ゴミは徹底的に粉砕され、一見すると乾いた土のような粉末になった。卵の殻やレモンの皮など、本来のかたちが見てとれるかけらもちらほらあり、バナナに貼ってあったバーコードのシールもそのまま残っていた。いかにも食欲をそそらない見た目だ。メリットはといえば、粉末になった生ゴミを捨てるのはいとも簡単なことである。

Millから支給されたプラスチック袋の中に、粉末はさらさらと流れるように入っていく。送付用のボックス(100%リサイクル可能な素材であることは言うまでもない)に入れて封をし、宛先ラベルを貼り、自宅のマンションのフロント(受付)に置いておけば、郵便配達員が回収してくれる。

わが家で粉砕した粉末の生ゴミが、本当にニワトリの胃に収まるかどうかはわからない。Millはこのシステムをテスト中で、ニワトリの餌として認可が下りるのを待っているところだ。

Millはサーモスタットや煙探知機、ステレオスピーカーをはじめとするIoT機器とは異なる。ただ既存の機器をスマート化しただけの製品ではないので、使うならかなりの本気度が必要だ。Millを待ち構えているのは、大衆を説得してこの新たな習慣を受け入れてもらうという、とてつもない難題である。

しかし、これだけは言っておきたい。Millのコンセントを抜いたわずか数時間後に、わが家に昔からあるWi-Fiに接続されていないステンレス製のゴミ箱に食べ残しを捨てた。そのとき、これではいけない!と思った。罪悪感で心がちょっと痛んだのである。

この罪悪感こそが鍵なのかもしれない。Millが難題をクリアして投資家に報いる日が来るのであれば、それは罪悪感のなせる技だろう。食事を残したわが子を前にした未来の親たちに、こう言わせたい。「お腹を空かせたニワトリのことを考えなさい!」

WIRED US/Translation by Yasuko Endo/Edit by Miki Anzai)

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