開店したOpenAIの「GPT Store」、開発者たちへの報酬の基準は?

カスタマイズされたチャットボットのアプリストアである「GPT Store」が1月10日にオープンし、ChatGPT有料版ユーザーが利用できるようになった。しかし、カスタムチャットボット制作者への報酬がどうなるのかについて、OpenAIははっきりした方針を打ち出していない。
3D render of desktop computer with a webpage and a store awning protruding from the screen
Illustration: MASTER/Getty Images

OpenAIは多くの点で型破りな企業だ。しかし、昨年11月にはテック業界のスタンダードなやり方を踏襲した。サム・アルトマンは開発者会議を開き、ソフトウェア開発者に向け、ChatGPTを基盤にしたプロダクト構築を促したのだ。

そして同社は、技術者もそうでない人もカスタマイズされたチャットボットをつくって共有することで収益できる、マーケットプレイスが近々ローンチされると言ったのだ。

このニュースへの反応は賛否両論だった。新しいプラットフォームの誕生を歓迎した人もいれば、壇上でデモンストレーションされた、洗濯に関するアドバイスをくれるアプリ「Laundry Buddy」をミームにする人もいた。OpenAIのアプリストア「GTP Store」は、その価値がミーム程度のものなのかより重要なもののかはともかく、競争の激しいAI業界で優位性を維持するための広範な戦略の一部なのだ。

開発者やクリエイターにインセンティブを与えて自社のプラットフォームに新鮮なコンテンツを提供させ、ユーザーを惹きつける新しい体験を供給し続けようというのが、OpenAIの狙いだ。OpenAIもまた、アップルのApp StoreやグーグルのYouTubeのような成功を目指しているのだ。

既存のアプリストアのようになる?

その「GTP Store」が、1月10日にスタートした。月額20ドル(約3000円)のChatGPT Plusサブスクリプションと、月額25ドルから数千ドル(約3600円から数十万円)のビジネスプラン、ChatGPT Team/Enterpriseのユーザーが利用できる。無料版のユーザーは、今のところ、ストアにあるGTPにはアクセスできない。

OpenAIはこれらのアプリを「GPT」と呼んでいる。そして同社の見解では、すでにGPTの人気は高い。11月にリリースされて以来、300万人以上のユーザーがカスタマイズされチャットボットを作成したと主張している。誰でも作成し、ウェブ上で公開することができるようになった今、GPTはさらに急速に増加する可能性が高い。

iPhoneのApp StoreやYouTubeのようなプラットフォームと同様、OpenAIのプラットフォームは、使い慣れたインターフェイスに、新しくて魅力的な機能や体験が追加されることを目指している。OpenAIのマーケットプレイスには、既存のモバイル端末向けアプリストアのように、新しく作成されたアプリを検索できる機能がある。OpenAIがおすすめするGPTはプラットフォーム上で宣伝され、人気のあるアプリの上位ランキングも表示する予定だという。

しかし、GPTをつくる開発者への支払いにまつわる計画はあまり進展していない。GPT作成に取り組んでいる開発者たちの事業規模はさまざまだが、誰もが有利な条件が後からついてくると信じているということだ。インセンティブの明確な基準がないまま、OpenAIは今のところChatGPTの勢いに頼って、開発者をプラットフォームに誘い込んでいる状態だ。

研究論文のAI検索サービス「Consensus」の共同設立者兼CEO、エリック・オルソンは、自社のGPTを「Google Scholarの強化版」だと説明する。彼はカスタムチャットのローンチが、新規顧客の獲得と、既存の有料顧客のロイヤリティ維持の両方を助けるはずだと考えている。

「顧客の中には、すでにChatGPT PlusとConsensusを別々に使う人がいます。(ChatGPTと行き来せずに)『Consensusだけでできるようにしてくれないか?』という要望はあります」

インタフェースはChatGPTのまま

GPTという言葉からはChatGPTの「チャット」が取り除かれているが、OpenAIは自社のテキストベースのインターフェースを使って、あらゆることをしてもらう場所にしようと考えている。ConsensusのようなGPTには固有のロゴがあるものの、チャットのやりとりは通常のChatGPTでやり取りされるものと同じだ。ユーザーがそれぞれのアプリ固有のGPTに入り、元々あるChatGPTに問い合わせるのだ。ハイキングガイドのAllTrailsやデザインツールのCanva、カーンアカデミーのCode Tutor、どれも変わらない。

ChatGPTは、それぞれのGPTの翻訳者やアシスタントのような役割も果たす。『WIRED』がAllTrailsのGPTに、カリフォルニア州バークレーで2時間のハイキングを提案するよう指示したとき、ChatGPTはどれくらいの運動量を予想しているか、また、犬も同行するかなどを重ねて尋ねて回答を出した。ChatGPTは次に、AllTrailsのAPIを呼び出す許可を求め、AllTrailsがクエリを実行してから、戻ってきた提案を照合して表示した。

また、OpenAIがすでに導入しているポリシーやガイドラインによって、GPTが提供する内容には制限がかかっている。ナチスを描いた誕生日パーティーの招待状のデザインを要求したら、CanvaのGPTはこう答えた。「申し訳ありませんが、そのようなリクエストにはお応えできません。前向きで適切なものをつくることに集中しましょう」。著名な企業がOpenAIのポリシーの限界に挑むことはないだろうが、一部のメーカーやユーザーはしかねない。新たなコンテンツモデレーション施策を考える必要が出てくるだろう。

報酬支払いの基準はまだ未定

OpenAIは、今年の第1四半期中に、GPTを作成するアプリ開発者やクリエイター(同社は「ビルダー(builders)」と呼んでいる)に対する支払いシステムを導入するという。今のところはGPTのユーザーエンゲージメントに基づいて支払われる、という点しか明らかになっていない。GTP Storeの立ち上げに関するブログ記事には、「支払いの基準については、追って詳細をお知らせします」と書かれている。

OpenAIの支払いシステムは、ユーザーエンゲージメントに基づくものになるだろうと同社は話している。これは2008年のApp Storeスタート以来アップルが採用しているような、アプリの売上を7対3で分配するモデルではない。どれくらい効果的にユーザーにプラットフォームを繰り返し訪問させたかによって、開発者やクリエイターの報酬が決まるのに近いやり方になるだろうと考えられる。

Canvaは、クリエイターへの支払いモデルを確立している。使いやすく人気のデザインアプリであるCanvaは、月間アクティブユーザー数1億7000万人、有料会員数1700万人を誇っている。プレミアム素材が購入されるごとに、クリエイターロイヤリティを支払う仕組みになっている。また、Canvaは生成AIの扱いにも慣れているようで、昨年にはOpenAIや競合のStable Diffusionと提携し、自社アプリ内でAI画像生成ができるようにしている。

現在、CanvaはChatGPT内にGPTを持ち、自社アプリにAIを追加するため利用していたAIプラットフォームに自社製品を置いている。Canvaのジェネラルマネージャー兼エコシステム部門責任者、アンワル・ハニーフは、CanvaのユーザーはAIに一から何かを生成させるより、デザインをカスタムしたり、AIに打ち返したりする場合が多いと分析する(確かに、AIが生成した画像は時に奇妙だ)。「ユーザーがいる場所に、わたしたちもいたいと考えています。Canvaのユーザーは、新しいこと、新しいテクノロジーを試すのを好む傾向があります」とハニーフは言う。

ハニーフによると、CanvaはまだOpenAIと収益化について議論していないという。現在、ユーザーがCanvaのGPTにデザインの下書きを依頼すると、いくつかのサムネイルオプションが表示される。さらにデザインを微調整したい場合、Canvaのウェブサイトに移行しなければならない。新規顧客の新たな獲得方法を、GPTが生み出しているケースかもしれない。

注目が集まるところに参入

Consensusのオルソンは、利用状況やエンゲージメントを基準にするOpenAIの支払いシステムに理解を示す。情報を割り出して整理するという、同社の主要事業に合致しているからだそうだ。オルソンはより明確な「レベニューシェアのロードマップ」を見たいと思っている。しかし今のところは「ChatGPT Plusのユーザーに(Consensusの)価値に気づいてもらう。それと同時に論文検索を使ってもらい、サービスについて知ってもらうための方法」だと捉えているという。注目が集まるところに参入するのは、理にかなっている。ChatGPTは今、テック業界の中心だ。

もし、OpenAIが支払いの基準を明らかにした時、それが企業にとって好ましいものではなかったとしたら、どうするのか? 「それはその時に考えます」とオルソンは語った。

WIRED US/Translation by Rikako Takahashi/Edit by Mamiko Nakano)

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