クリエイションが第一だから“サステナ”をあえて謳わない:ニットブランドCFCLの次なる挑戦

クリエイションで突き抜けるか、サステナビリティを実現するか、必ずしも二項対立ではないはずだが、それを両立するブランドは「なかなかない」とCFCLの高橋悠介は言う。だからこそ、アパレルブランドとして日本初のB Corpを取得したCFCLが、それを実現するのだと。
CFCLの次なる挑戦:クリエイションが第一だから“サステナ”をあえて謳わない
PHOTOGRAPH: KOJI HIRANO

2023年2月、CFCLの2023-24年秋冬コレクションが、パリのパレ・ ド・トーキョーにて発表された。「Knit-ware: Function」というテーマを掲げた今季のコレクションでは、3Dコンピューター・ニッティングなどの最新テクノロジーや科学的な研究を駆使することで、カジュアルなイメージをもつニットウェアを、機能性がありながらもエレガントさを兼ね備えた新感覚の服へとアップデートして披露した。

22年には、環境や社会に配慮し公益性が高いと認められる企業に対して与えられる国際認証B Corpを、日本のアパレルブランドで初めて取得したことでも話題となったCFCL。

ファッション分野でも、環境問題やジェンダーギャップ、人種差別などへの関心が高まる昨今、デザイン性と社会問題に対する取り組みの両軸に力を入れるCFCLは、パリ・コレクションという舞台をどう捉え、いかなるメッセージを発信したのだろうか。改めてCFCL代表兼クリエイティブディレクターの高橋悠介に訊いた。

──CFCLは、今季が3回目のパリ・ファッションウィークへの参加ですね。まず、゙参加することを決めた経緯を教えてください。

高橋悠介 ぼくが初めてパリ・ファッションウィークを経験したのは、前職であるISSEY MIYAKE MENでデザイナーを務めていたときです。ファッションをビジネスとして捉えていく感覚を育んでくれた場所がパリ・コレクションでしたし、パリはグローバルな舞台でファッションのクリエイションを発信していく環境としてベストだと感じたのを覚えています。

いまやSNSやD2Cがあるので、パリ・コレクションに参加しなくても世界に向けてクリエイションを発信することは可能ですし、ニューヨーク、ミラノ、ロンドン、東京コレクションなど別のコレクションもあります。なぜパリなのかと訊かれると、パリ・コレクションがもつ独特の格式の高さが要因として大きいかもしれません。

パリコレは100年以上にわたって、ファッション業界における流行を生み出し続けています。世界中の人々がパリコレを見て影響を受け、またビジネスのチャンスも一気に拡がるので、パリコレに参加する意義は非常に大きいと感じています。グローバルで販売チャネルを拡げていく場としても、コストパフォーマンスなどを考慮すると理にかなっていると思います。

──CFCLは環境問題をはじめとする社会的な問題に対しても取り組んでいると思います。半年という早いサイクルでファッションの消費トレンドをつくっていく観点からパリ・ファッションウィークを見たとき、どのように感じていますか。

衣服における流行を生み出しているコレクションというものは、半年ごとのサイクルで動いています。同じようなデザインであっても、半年前の商品は自動的にセールになり、売れなかったら廃棄されます。端的に言えば、 半年で洋服の価値が30〜40%下がるわけです。これは、常に新しいものに価値があり、古いものの価値が下がるということを象徴しているのですが、そういうものを生み出しているパリコレに参加することの意味を考える必要は確かにありました。

CFCLを立ち上げた2020年は、ファッションの意味というのが大きく問われ直している年でした。その少し前の2010年代後半から、ファストファッションが浸透したことによる過剰供給の問題、つまり売れ残った服がゴミとして捨てられる事態が深刻化し、エシカルファッションなどが注目されていたときでもありました。ぼくはパンデミックが起きる直前にブランドを設立したのですが、「エッセンシャルワーカー」という言葉のように、わたしたちが食べるご飯など食品を扱うお店や、移動のための手段である交通機関は営業していても、服屋は全部閉まるという状況が起こりました。あらゆる人が服を着ているにもかかわらず、洋服はエッセンシャルなものではなかったんですよね。

ファッションを巡ってさまざまな問題が顕在化している時代に、ブランドを立ち上げて新しく服をつくる仕事を選ぶことの意味を考え直す必要があると思いました。服のもつ意味や役割を深く考えていかないと、最終的にゴミになる無意味なものをつくってしまうことになるわけです。

それでもファッション業界全体で、新作だけが価値をもつのではなく、古いものもヴィンテージとして再販したり、リペアサービスを充実させて長く使ってもらう仕組みをつくったり、2020年をきっかけに新しい価値観が生まれています。それ自体がトレンドとしてパリコレに参加するブランドから強く発信されています。そう考えると「新しいものが価値を持つのか?」という問い自体が新しい潮流であり、それがパリコレに参加する意味のひとつだと感じています。

──パリコレには、グローバルなトレンドを生むことで世界規模の価値観の変容を促すパワーがあるわけですね。

はい。どこの誰だかわからない人が何かを発信したとしても影響力はあまりありませんが、パリコレという権威のある舞台で、自分のブランドを世界中の人たちにちゃんと知ってもらい、共感してもらうことのアドバンテージがあったうえで、服をつくっていくことは、結果として世界規模での問いの投げかけや、価値観の浸透につながっていくのではと考えています。

──CFCLは、高いデザイン性はもちろん、日本のアパレルブランドで初めてB Corpを取得し、環境や人権問題を中心とするさまざまな社会問題に対する取り組みを行ない、社会に対するメッセージを発信し続けているブランドのひとつだと感じています。

CFCLは、Clothing for Contemporary Lifeの頭文字で、「現代生活のための衣服」という意味です。現代の生活を豊かにするための道具として服を捉え、その要素として、「ソフィスティケーション」「コンフォート&イージーケア」「コンシャスネス」の3つを掲げています。カジュアルなシーンから特別なオケージョンまで対応する品格、洗濯可能で速乾性といった機能性、人権や環境に配慮された素材や生産プロセスの選択、ローカルで透明性のあるサプライチェーンなどの企業スタンスを示していくことなどが、その3要素には含まれています。

2020年にブランドを設立したときに、時代に必要なことに向き合っていくなかで必然的に取り組んでいくトピックとして、サステナブルな観点も組み込まれていきました。ですが、CFCLの根幹を支えているのはクリエイションの力でもあります。

19年にはメゾンブランドがエシカルファッションのトレンドセッターとなって活動していたと思うのですが、レザーやファーを使わないなど動物愛護の観点が中心で、環境問題などを扱っていたわけではありませんでした。また、環境問題への取り組みを売り文句にしては、それが当たり前になったときに強みが失われてしまいます。

服としてのクリエイションに力を入れながら、次の世代のための取り組みを当たり前に行なうブランドというのがなかなかないからこそ、CFCLが取り組んでいる「現代生活のための衣服」というコンセプトには非常に大きな意味がありますし、それを世界に発信していきたいと思っています。

──確かにデザイン性、機能性、エシカルな視点を全部を兼ね備えたファッションブランドは希少な気がします。

そうですよね。ブランドとしてのクリエイションや感性、思想を高めることを考えたときに、半年に一度コレクションを発表するスピード感自体は意外と悪くないかなとも思います。というのも、世の中って意外と速いスピードで進んでいくからです。例えば、コロナ前は、リモートワークやマスクや非接触インターフェイスなどは、そこまで当たり前ではありませんでしたが、パンデミックになって一気に浸透していきました。メタバースやWeb3といった言葉が広まったのもここ2、3年のことですよね。

振り返っていくと、意外と1年に1回ぐらいは大きな変化の潮流が押し寄せてきていて、その潮流を起こす社会と個人を結ぶメタファーやメディアみたいなものが存在している気がします。ファッションがそうしたメタファーになりえるとしたら、そのくらいのスピードでの進化があってもいいのではと思います。

社内でもコンプライアンス研修を実施したのですが、コンプラやパワハラなども、なぜそれが起きるかというと、仕事に対する向き合い方や、物事の価値観が世代によって異なっていることと、時代によって社会における価値観が変化していくからですよね。飲みニケーションみたいな考え方が実はハラスメントだったりするなど、ちょっと前だったらよしとされてたことが、いまは完全にアウトといったことが起こりえるわけです。そういった現象は、それ自体が悪いのではなく、考え方自体が変わってきているから起こるのだと。そう考えると、半年に1回、社会を見直す行為というのは必要なことのように感じます。

──2023年
秋冬コレクションのテーマ「Knit-ware: Function」について教えてください。

まず、CFCLは「Knit-ware」という言葉を毎シーズン使っていて、シーズンごとにこの基本コンセプトを違う角度や新しい考え方を取り入れながら読み解いていくスタイルをとっています。「ware」 は着るという意味ではなく、器という意味を表していて、ボディを包む要素としての服というニュアンスが込められています。

2023年秋冬のコレクションは「Knit-ware: Function」というテーマを掲げました。「Function」は機能性などの意味のほかに、関数という意味も含まれています。CFCLの服は、3Dコンピューター・ニッティングを用いてつくられているのですが、それらの独特な立体フォルムを形づくるのは、コンピュータープログラミングに入力された、自然界や社会の背景にある数理的な関数でもあります。

パリコレのフィジカルなショー形式の発表ということでは、2023春夏に続く2回目の参加で、今回が初めての秋冬のコレクションとなりました。ニットウェアブランドの秋冬のコレクションと聞くと、どうしてもニット=冬というイメージに結びつきやすく、ウールのセーターやカーディガン、ローゲージのケーブル編みのセーター、カシミアなどのイメージになりがちですが、CFCLがリーチしたいマーケットは、東南アジアや冬でも夏のような気候の中で暮らす国の人たちも含んでいます。そういった地域の人たちに向けてニットウェアブランドと言ってもなかなか刺さらないわけです。

ニットウェアブランドというと、どちらかというとブルネロ クチネリやジョン・スメドレーなどのファクトリーブランド系が多いので、 それらのもつニットの概念といちばん遠いものを考えたときに、「construction(構築)」というイメージが浮かびました。数理モデルやカーブのようなアイディアを入れると面白いんじゃないかと思い、そこからデザインを進めていきました。

そのなかで、カーブがもつイメージを掘り下げていったときに、クロソイド曲線というカタツムリや巻貝の殻の渦巻みたいな螺旋形を表す用語を知ったんです。クロソイド曲線は、高速道路のインターチェンジや、ギリシャのイオニア式柱頭などにも採用されています。CFCLは衣服を通して、こうした自然界や社会のなかにある合理的な数理モデルを捉え直すとともに、現代のライフスタイルにおける機能性やエレガントさというものも追求しています。

──CFCLのコレクションは、どのようなクリエイションの工程を経てつくられているのでしょうか?

CFCLの服は150品番ぐらいあります。そのうちの70品番ほどがリピート商品といっていままでに出したことがある商品となり、シーズン毎に色違いなどを展開しています。残りの商品の9割は、過去に使用したことがある糸を使っています。それらの商品は袖や丈を短くしたり、襟を高くしたりというマイナーアップデートをしたものになります。残りの1割はまったく新しい商品です。

──新作は全体の1割なんですね!

CFCLはほかのブランドと考え方が違い、売れた商品は繰り返し売り続けます。売れている商品と新規の商品を戦わせて、どっちの方が売れるかを見て、どの商品を残していくかを決めるというプロセスをとっています。1割だからといって新たなものを生み出すクリエイションに力を入れていないわけではありません。

例えば、ニットは風を通しやすく、重くなりやすいため、いまの時代に合った軽やかさを体現するようなコートをつくるのが非常に難しいんです。ウールの肉厚で重いコートを軽くつくるという挑戦にはさまざまな観点におけるクリエイティブな発想が必要です。また、秋冬といっても夏真っ盛りの7月から販売するので、ポリエステル100%よりも、上の部分はキュプラなどの天然素材で汗が吸収されやすくあせもになりにくいようなものを組み合わせていく、といった細かな部分における工夫やこだわりが衣服の可能性を拡げていきます。

こうした機能性だけでなく、ニットを使ってどれだけエレガントなものをつくれるかを追求することも大切にしています。例えば、シースルーの服やフェイクファーのような糸を使い、ゴージャスな雰囲気もデザインしています。

──季節や用途にあわせた機能的な側面とエレガントさの追求を、研究開発を交えながら包括的に行なっていく工程はCFCLの特徴のようにも感じます。環境に配慮した生産プロセスはどのように構築していますか。

CFCLの商品の90%は過去に使ったことのある糸が使用されています。使っている糸の種類は、150品番すべてに対して7〜8種類のみしかありません。つまり、同じ糸を何十トンと大量に仕入れることが可能になり、原料の調達が安定します。そうすると仕入れ先との関係性が太くなるんです。必ずこのくらい発注してくれる、このくらい発注が増えるなどという目安がわかるので、お互いにとって持続可能な開発が可能になります。

IMAGE COURTESY OF CFCL

シーズンごとに新しいデザインをつくるために、生地屋さんを変えるブランドは結構あるのですが、CFCLはファーストシーズンから一緒に取り組んでる工場とずっとやり続けています。 これは、サプライチェーンが非常に短いニットという原料だからこそできることでもあります。通常、素材が生地になり、それを染めたり、刺繍やプリントを施し、縫製し、加工をするという工程が発生しますが、ニットの場合は、糸をニッターさんがつくったらおしまいなんです。

──とてもシンプルな工程ですね。

はい。CFCLは素材である糸を無駄にしないことも心がけています。余った糸は次のシーズンに使えますし、ちょっとしか残っていなくても次のシーズンのサンプルとして使います。バラバラになっている糸などは、 ポップアップや、オープンのタイミングに合わせて店舗別注商品やノベルティバッグなどに使用します。

CFCLは100%サステナブルなブランドではないので、再生素材だけを使っているわけではありません。もちろん、再生素材100%で、コレクションをつくることはできますが、われわれが追求したいクリエイションに到達することはできないからです。でも一方で、再生素材や認証素材をどのくらい使用してるかなどは数値として発表しています。

IMAGE COURTESY OF CFCL

──2023年秋冬コレクションにはどのくらい再生素材が使われているのでしょうか?

2023年秋冬コレクションでは再生素材を約75%使用しています。CFCLは、クローズドループ(廃棄される製品や原材料などを新たな資源だと捉えて循環させる)を構築することの重要性を意識しており、再生素材の使用比率を上げる努力をしています。資源を一方通行させない。再生素材を使用し、われわれがつくったもので捨てられていくものをちゃんと回収できるシステムを将来的にはつくっていきたいと思っています。そうなったときに、再生ポリエステルは非常に使い勝手がよく、リサイクルしやすい素材でもあるので使用しています。

そのほかに、CFCLは全商品の約4割に対してLCA(ライフサイクルアセスメント)を測定し、温暖化ガスの削減目標の設定に活用しています。将来的には全商品の温暖化ガスやカーボンフットプリントの測定を行なう予定です。このようなサスティナビリティに関する情報は、半年のシーズン毎にコンシャスレスレポートとして開示しています。

──CFCLの取り組みはトレーサビリティに基づいて公開されているのですね。原材料の仕入れ、生産、販売、廃棄など全工程でのCO2排出量などの環境負荷を算出するLCAの測定を、CFCLのみで行なうことは可能なのでしょうか?

おっしゃる通り、LCAの算出には、自分たちが関与できない状況がいくつかあります。例えば、再生プラスチックに関する問題です。CFCLの定番商品であるワンピースには再生ポリエステルが使われていますが、原料は台湾のペットボトルで、製糸も現地で行なわれているため、その工程で発生する温暖化ガスはわれわれではコントロールできません。

これは、2000年代に日本政府が行なった、プラスチックごみを海外に輸出するビジネスが起因となり、プラスチックごみをリサイクルできる工場の数が日本に少ないことが原因です。日本で回収したポリエステルを日本の工場で加工できれば、カーボンフットプリントも減りますし、より小さなクローズドループが実現できます。

また、販売した服の回収システムがないため、販売後に発生する温暖化ガスも測定できません。再生ポリエステル100%の素材は再利用ができるため、回収できればその後も資源として活用できます。こうしたポイントは、ひとつのブランドだけでは解決できることではなく、ファッション業界はもちろん、行政やほかの業界も巻き込んでリサイクルのスキームを構築していかないと改善されていきません。

今回のコレクションのシューズはすべてアシックス社とのコラボレーション。環境省との取り組みをきっかけにスタートしたこのプロジェクトは、 原料調達、製造、輸送、使⽤、廃棄に⾄るライフサイクルにおいて、現時点で温暖化ガス排出量が公表されているシューズのなかで、最少の排出量を達成したスニーカー、GEL-LYTE™ III CM1.95をベースにデザインされいる。シューズの一生での温暖化ガス排出量を1.95kg-CO2e/pair.まで削減した。

POTOGRAPH: KOJI HIRANO

──確かに環境問題はさまざまなトピックが複雑に絡み合っているため、多くの人々やセクターを巻き込んでいく必要性を感じます。

はい。環境に優しいと言われている再生素材を使用したとしても、素材を他国から輸入したり、商品の回収スキームがないために廃棄されていく現状にはさまざまな矛盾があります。また環境問題には、労働環境における人権侵害や貧困など異なる問題も絡んでいたり、数えきれないほどの矛盾があるのも事実です。

──確かに課題はひとつではなく、複雑化しています。見る視点によっては、環境や社会に対してよい取り組みとは必ずしも言えないものもありますね。

そうです。ぼくたちは、自分たちのことを“サステナブランド”と言わないことを意識しています。例えば、動物愛護を表明しているブランドがフェイクファーを使ったことがエシカルな選択として話題となったときに、フェイクファーがエコファーとして認知され注目を浴びました。その同じタイミングで、エコファーやフリースの糸がマイクロプラスチックとなって海洋汚染に繋がっているという記事が出ました。

確かに、ある面においては地球環境に優しい選択をしているわけですが、ほかの面から見たときに、何をもってエコやサステナブルなのかは全然違ってくると感じたのです。 だから、われわれは“サステナブランド”と名乗ることよりも、自分たちの取り組みを数値化したレポートの開示やB Corp認証の取得など、第三者機関における評価などを通して、今後の指標を図っていく努力をしています。

──個人と社会の意識の変容を促す媒介者としてCFCLの衣服や取り組みが機能するようにも感じます。

WWDが主催したサステナビリティ・サミットに登壇したときに、ファッション業界の方たちが、ファッションは、国連貿易開発会議において第二の環境汚染産業だと言われていて、 本当に絶望的なのでなんとかしなきゃいけないという議論などが起こっていました。一方で、そういう意識をもってる人たちに汚染産業の第1位と第3位は知ってるんですか?と質問したら、ほとんど誰も知らないんです。あらゆる産業が環境や人権に負荷をかけていますが、ファッションが槍玉に挙げられやすいのは、非常に希望があることだと感じました。ファッションがわたしたちにとって、それほど身近なもので興味の対象にあるということでもあるからです。

──ファッションや食などは身近なトピックでもあり、興味の出発点にもなりやすいですね。そこから調べていく事で、国内や世界で起こっている環境や人権、ジェンダーやLGBTQ、経済格差、難民問題といった深刻な問題に気づくことができるのかもしれません。

Twitterなどで、海ガメの鼻の中にプラスチックストローが刺さってる画像が拡散して、世の中のカフェからストローがなくなる現象などは、ある種のファッションだなと思うんですよ。エコバックを持つのは、クジラの胃袋の中からビニール袋が大量に出てきたのを見たからとか、プラスチック容器の代わりにタンブラーを持つのもひとつのファッションとして捉えられます。

ほかにも、女性の権利を考えるMe too運動、LGBTQ、ボディポジティブなども、どんな理由であれ、ファッションだから関心をもてるところがあるのではないでしょうか。近年、こういった社会的なトピックに関心があることがかっこいいという風潮や、社会問題に対する意識の高さが自身の社会的なステータスを上げるといった風潮がますます浸透してきています。こうした行動心理学的な現象を利用すると、社会的な影響力が生まれますよね。ファッション的なある種のチャラさや浅さみたいなものは、別の視点から見ると接続する面を拡げてくれているわけで、そういう意味では、ファッションは、社会を変える可能性を秘めているとも言えます。

PHOTOGRAPH COURTESY OF CFCL

──個人の態度や姿勢、ムーブメントもファッションと捉えたときの影響は大きいですね。そこから深度を深めて、より持続的な変化にどうつなげていけるかが重要だと感じます。

そうですね。そういう意味で捉えたとき、ファッションブランドの面白さは、川上の生産者からチェーンの最後の面であるコンシューマーまですべてに触れている部分でもあり、影響を与える範囲が広いところかもしれません。

ソーシャルメディアなどが主流の時代では、ファッションブランド自体がメディアとなり、消費者や生産プロセスに関わるセクターの双方に影響を及ぼすことが可能です。クローズドループを一緒につくりましょうという話も、CFCLのイメージを利用することで商社や行政の人たちの関心を高められ、資金調達やシステム自体の改革が実現できる循環を生みやすくしています。

ブランドの掲げるコンセプトをわかりやすく伝えることや取り組みの数値化、公正な機関からの認証取得だけでなく、世界観やインスピレーションを拡げるストーリーテリングも重要だと感じています。

2023秋冬コレクションでは演出・セノグラファー(舞台美術)を担当したアーティストのナイル・ケティングさんとともに、仏教における輪廻転生や終わりと始まりが存在していないような考え方、自然崇拝的な観点などからインスパイアを受けながら、クローズドループを体現する視座としてサーキュラーやサークルといった概念を拡張するようなナレーションや音楽を取り入れました。

スピルバーグの映画などもそうだと思うのですが、近未来的なストーリーやアドベンチャー感にワクワクする一方で、物語の背後では社会的な問題に触れられているので、見終わった後に考えさせられます。今回のショーでは、そんなクリエイションができたらと思っていました。

──今後、予定されているプロジェクトを教えてください。

CFCLブランドを設立した当初から開発していた香水が販売されました。ぼくにとって、フィジカルな体験や感覚というものは非常に重要で、特に香りにはずっと興味がありました。ブランドを立ち上げた当初、オンラインストアしかなかった時期から購入してくださった方には、パッケージの中に服と一緒に香りを包んで届けています。試着室に来て、鏡を見る瞬間の高揚感を提供できない代わりに、箱を開けたときに、香りから服を着ることが始まるのは、体験として豊かになるひとつの助けになるのではと思ったからです。

PHOTOGRAPH COURTESY OF CFCL

店舗がオープンしてからは、CFCLの香りをディフューザー機器を使ってお店の中に提供しています。お客様とのコミュニケーションも含めて、体験をつくっていくのがブランドの役目だと思ったときに、香りをつくりたいと思い商品化を進めていました。ニットドレスというものをオケージョナルな服として着用するときの気持ちの高揚感は素敵ですよね。ジュエリーをつけるような感覚で香りをまとっていただきたいです。洗濯機で洗える服なので、服に吹きかけてもらっても安心です。

──どんな香りなのですか?

「EQUIP」という名前の香水で、身支度をするという意味が込められています。透き通った水のようにシャープで凜としたボタニカルなノートです。CFCLの服は、朝起きてパジャマからCFCLのドレスに着替えて、そのまま家事をしたり、子どもを幼稚園に連れて行ったり、仕事をしたり、スニーカーからヒールに履き替えたらレストランにも行けるようなさまざまなシーンに適応するソフィスティケーションを兼ね備えています。「EQUIP」はCFCLの服とともに1日を始めるための朝の準備やシーンの切り替えを高めてくれる香りになっています。

高橋悠介|YUSUKE TAKAHASHI
1985年生まれ。 2010年、三宅デザイン事務所に入社、13年にISSEY MIYAKE MENのデザイナーに就任。 20年に独立してCFCL(シーエフシーエル)を設立する。21年には「第39回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞」と「FASHION PRIZE OF TOKYO 2022」を受賞。


PHOTOGRAPH BY YOSUKE SUZUKI

(WIRED JAPAN/Edit by Michiaki Matsushima)

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