EVの販売が好調な米国で「充電スタンド不足」が課題になりつつある

気候変動対策としても期待される電気自動車(EV)。米国では順調に販売台数を増やしているが、さらなる普及の足かせになりそうなのが充電インフラの整備だ。
A person charges his electric car at a car charging station at night. Green light illuminates the frame.
Photograph: Frederic J. Brown/Getty Images

世界最大級の家電見本市「CES」が2023年1月はじめにラスベガスで開催されたが、それはまるでモーターショーというか電気自動車(EV)ショーのようだった。会場は自動車メーカーや自動車部品メーカーでごった返し、充電式の斬新な試作モデルや美しく洗練された電動コンセプトカー、それらの次世代EVを制御するソフトウェアがずらりと並んでいた。それにもかかわらず、いま最も肝心なEV関連のプロジェクトが、脚光を浴びているとは言い難い状態になっっている。

EVは業界アナリストの見込みよりずっと速いペースで受け入れられており、米国での販売は極めて好調だ。とはいえ、EVを購入すれば、ドライバーはどこかで充電する必要が出てくる。つまり、最新の電動スポーツカーのような華やかさには欠ける「インフラ整備」という問題が生じてしまうのだ。

米国では現在、EV所有者のおよそ90%が自宅か職場で充電できている。しかし、気候変動対策の目標を達成するには、もっと多くの人にEVを購入してもらうことが(十分ではないものの)極めて重要となってくる。

米国の全住民の3分の1以上が集合住宅で暮らしていることを考えると、個人が自宅に充電設備を設置することは難しいだろう。米エネルギー省によると、国内に設置されているEV用公共充電スタンドは50,000カ所足らずだ。

これに対してある分析結果によると、州政府や連邦政府が掲げるガソリン車の新車販売禁止を35年までに実現するには、49万5,000カ所の充電スタンドが必要になるという。設置コストは、充電器1台あたり10万ドルを超えることもある。

充電スタンド不足解消のために米国政府は多額の資金を投じているが、その注目度は低い。21年には超党派のインフラ投資法案が、22年夏には気候変動法案とも呼べるインフレ抑制法案が可決され、合わせて75億ドルもの資金が州間高速道路沿いにEV用充電スタンドを設置する目的で投じられる予定だ。多額の税額控除も盛り込まれ、企業は独自の充電設備をより安く購入・設置できるようになる。

これだけの措置を講じれば、今後5年間に公共充電スタンドを50万カ所に設置するには十分だとされる。連邦政府は23年中に、高速道路沿いにEVの充電スタンドを設置するための助成金15億ドルを州政府に支給する計画だ。農村部や低所得者層が住む地域に設置を希望する場合には、さらに25億ドルが上乗せされる。

これだけの資金が投じられるにもかかわらず、充電スタンドという新たな大型インフラをいかにして素早く構築できるかは、いまだ不透明だ。クルマ社会の米国であまり苦労せずにガソリン車からEVへ移行するには、公共充電スタンドの普及がどうしても必要になる。この切実なニーズと、連邦政府による多額の資金投入がうまくかみ合えば、EV充電整備計画は気候変動対策の過程でひとつの時代をつくりあげられるかもしれない。

待ったなしの状況と政府の計画により、黎明期にあるEV充電スタンド業界が本格的に始動し、標準化が進むことを関係者は期待している。政府の介入がありがたいのは、現状の充電スタンドには規格の面でのばらつきがあるからだ。すべてのEVに対応していないところも少なからずあり、充電速度もまちまちで、信頼性の問題もある。

EV充電ネットワークの構築・保守を手がけるABBの渉外担当バイスプレジデントのアサフ・ナグラーは、一体化した支援を政府に望んでいる。「そうすれば、これまでEVの充電と無縁だった人たちとも一緒になって取り組んでいけるからです」と、ナグラーは語る。政府機関、電力会社、自動車メーカーなどが一致団結し、誰もがいつでもどこでもEVを充電できるよう、公共充電スタンド網を構築することが求められている。

故障している充電設備が多い米国

米国が抱える問題のひとつは、設置済み充電スタンドの信頼性が低いことだ。ドライバーからは充電器が故障しているという苦情が頻繁に寄せられ、EVで旅行中に充電スタンドが見つからず、立ち往生したという話がメディアを騒がせている。常に充電可能な充電スタンドがどのくらいあるのか確かな数を把握するのは難しいが、サンフランシスコ・ベイエリアで実施された調査では、公共高速充電スタンドの4台に1台が常時故障中であることが判明した。

故障の原因はさまざまだ。しかし、新しい技術を備えた設備が風雨に晒されているとなれば、原因の多くは驚くに値しないだろう。例えばケーブルが切れている、電力変換がスムーズにいかない、支払い画面が故障で消えている、誰かのいたずらにより充電口が塞がれている、スズメバチが巣づくりをしている──といったことなどだ。

「充電器が使えないという苦情が各地で多く寄せられています」と、持続可能性の研究機関ロッキーマウンテン研究所(RMI)のカーボンフリー・モビリティ・チーム代表として電動化を研究しているデイヴ・マラニーは語る。

早期に充電スタンドを生産して運営を継続している企業のなかには、維持管理を義務づけられていないところもある。しかし、インフラ投資法で支援される新たなプログラムに参加を希望する企業は、すべて維持管理について一定の要件を満たさなくてはならない。

充電器の維持管理基準とすべき内容は、いまだにプロジェクトを進める連邦政府と州政府が策定している最中だ。しかし、連邦政府からの助成金で充電器を生産・運営する企業は一様に、使用状況、信頼性、維持管理コストを詳述したデータを提出する必要がある。

連邦政府は実際、公共充電スタンドの助成金に申し込む州に対し、維持管理を担う新規要員へのサポート体制について詳細な計画案を提出するよう義務づけている。「こうした信頼性について継続的に重きを置く姿勢については、大きな期待がもてます」と、充電スタンドメーカーと政府機関にEV充電器の運営・維持管理サービスを提供するChargerHelpの製品責任者のウォルター・ソーンは語る。

ChargerHelpは、自動車技術関連の規格を定める国際団体「自動車技術者協会(SAE)インターナショナル」と共同で、充電スタンドのアフターサービス技術者にどのようなスキルが必要かを明確にし、認定技術者制度を構築している。これはより多くのEV充電スタンドを修理する技術者の育成に向けた第一歩だ。

設置には手続きを含め、時間がかかる

一方で、多くの充電スタンドの設置を進めていかなくてはならない。米国で有数のEV充電サービス企業のEVGoによると、同社が現時点で設計・生産中の充電器は4,500基を超えるという。これは創業から10年あまりの間で最も多い数字となる。ただし、これらの新たな充電器を実際に設置するには何年もかかる。

こうしたもたつきの一因は、不可欠だが退屈きわまりない許可取得の手続きのせいだ。EVに搭載されたバッテリーを1時間で満充電にできる高速充電器は、設置にかなりの手間がかかる。地下に埋め込む作業そのものは設置場所によってほとんど大差はなく、電力会社と連携して道路を掘削して設置しなくてはならない。

ところが、工事許可の取得手続きは、管轄区域や市によって大幅に異なることを専門家は指摘する。充電器メーカー側は、さまざまな設置場所に適用できる合理化されたプロセスが必要だと訴えている。一例としては、EVの充電器がそれぞれの設置場所の安全法規に準拠しているかどうか、調査確認を自動化することだろう。エネルギー省が太陽光パネル設置プログラムに助成金を出したときのようなシステムを求めているのだ。

一方で、コロナ禍に生じた電子機器不足も尾を引いている。特に足りないのが変圧器だ。「だからこそ、充電器の設置には早めに着手すべきなのです」と、充電器メーカーVolteraの最高経営責任者(CEO)のマット・ホートンは、22年のインタビューで語っている。充電スタンドの設置に向けて綿密な計画を立てたとしても、実際に稼働できるようになるまでには、政府やEVの所有者が考える以上に時間がかかるのだ。

持続可能な充電器ビジネスを目指して

充電スタンド網の構築計画を成功させるには、連邦政府による資金のばらまきが終わったあとも、事業者側がビジネスを維持・継続していくためにコストがかかることを認識していなければならない。EVがかなり普及してくれば、当然ながら儲かるようになると思うかもしれない。だが、いつそうなるのか、どうすればそうなるのかは不明だ。

充電ネットワークの構築や運営にあたる企業は、独占的に事業を展開する公益事業者と競争するはめになるのではないかと不安視する。なぜなら、公益事業者が独自に充電装置を生産すれば、州によっては民営のスタンド運営会社に対してピークタイム時に通常より高い電気料金を課すことも可能になるからだ。そのほかにも、米国政府がどれほど多額の資金を投じようとも、公的資金が十分に行き渡らないのではないかという懸念もある。

充電スタンドの設置には、かなりの初期費用がかかる。土地の取得費や設備費などがそうだ。EVの普及が遅れている地域では、初期投資分を回収するまでにかなりの時間を要するかもしれない。

気候変動法案では、EVの普及状況にかかわらず、高速道路沿いに50マイル(約80.5km)間隔で充電スタンドを設置するよう州政府に義務づけている。「何らかの支援が必要です」と、ゼネラルモーターズ(GM)でEVの公共政策を担当するシニアストラテジストのジェイミー・ホールは22年12月のEV充電業界イベントで語っている。「現在のところ高速道路に高速充電器を設置する事業は、かなり厳しい状況といえるでしょう」

一方で、こうした問題は短期的なものだと楽観視する業界関係者もいる。こうした人々はあと5年ほど、つまり公的資金の投入が終わる前には充電問題が解決する可能性があると考えているのだ。

RMIのマラニーに言わせれば、充電器メーカーには十分な資本が流入している。いまのうちに充電インフラを構築し、ドライバーにずっと使い続けてもらえれば、今後何十年かには利益を出せるという考えだ。「いま公共の場に設置された充電スタンドが本当に必要とされ、利益も出せる転換期を迎えつつあります」と、マラニーは語る。つまり、熱心に取り組めば報われるということなのだ。

WIRED US/Translation by Yasuko Endo/Edit by Miki Anzai)

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